ふさぎガチ

オギェッセイ#12 弱い物を可愛いと思う傲慢さが嫌で

2022-08-04

セックスワーカーと交際した事があるだろうか。
自分は現役もあれば、元もあれば、本人は隠してるつもりだったんだろうけど、陰でしていたという事もある。
どれもこれも短いお付き合いだったり、交際に至らなかったりだったけど、それは決してセックスワーカーだからではない。

まだ、恋愛感情のフリをする好奇心に気付いていなかった頃。
その日は飲みに出て、いつも通り午前0時を回った頃に酔いで眠くなり、ハッテンサウナへ行った。
酒も入っていたので、プレイルームとは別のテレビが流れ、リクライニングチェアが並ぶ休憩部屋で、眠気と酔いの覚醒の中間ぐらいでまどろんでいると、入り口の扉が開いたと同時に場にそぐわないボリュームの声が聞こえて来た。

目をやると、金髪で背丈の低い20代前半の子が酔っ払った様子で立っており、
後ろにはやれやれと思いつつも嫌ではなさそうな40代中盤の冴えない男性が立っていた。
友達同士という距離感でもなかったが、年齢の離れた友人同士などよくある世界だ。

若い子が自分と目が合うなり、そのままつかつかとこちらへ寄って来た。
そして膝に座り、自分を口説き始めた。
他の人にも迷惑がかかっているし、中年男性もなんだか複雑な表情でただこちらを眺めているので、彼のもとへ戻るよう促したが、電話番号を教えろの一点張りだったので、その日は連絡先だけ交換して早々に立ち去って頂いた。

後日、連絡を取り合い、もう今は無くなってしまったショットバーで落ち合う約束をした。
会ったその日の話や、身の上話などを聞いた。

売り専で働いている事。
24で後ろに居た人は自分を買った人だった事。
田舎から荷物一つで家出同然で出てきた事。
働いた一軒目の売り専では酔い過ぎて看板を壊してクビになった事。
今は二軒目で働き始めたばかりだと言う事。
堪え性がない事。

一通り話し終えた時に、ふと彼への興味が切れてしまった。
そういう事が今でもたまにある。
人を好きになる理由と一緒で、理由は後から考えればいくらでもつけられるし、酒の席で冗談めかして話す事もあるけど、興味を持つ理由も失う理由も、未だにはっきりとは分からない。

もうひとりは、出会い系で知り合い、飲食店で酒を嗜みつつ夕飯を食べ、自分の部屋へ呼んだ人だった。
出会ってすぐそういう行為をするより、ゆっくり知り合いたいと言っていて、自分も性行為にそれほど前向きなタイプではないので、横になってくっつきながら、生い立ちの話や身の上の話をしてくれた。

親が厳しいタイプの人だと言う事。
店舗型の売り専で働いていた事。
就職した職場で適応障害になって辞めてしまった事。
今、休職中だと言う事。
高校時代はバンドのリーダーをやっていて、とても充実していたという事。
あの頃はとても楽しかったという事。
あの頃に戻りたいという事。

一晩そのまま眠り、翌朝返って行くバスの中から、彼はまた会いたいと連絡を送ってくれたが、
「自分は付き合いたい人だから、そういう事を考えると会えないかな」と、心にはないそれっぽい理由をつけて連絡を断った。
関係を始めたら、彼に消費されて終わる未来が見えてしまったからだ。
人を可哀想だと思うのは傲慢で好きじゃないけど、どこか自分の中にまだ、人をそう思ってしまう感情はある。
か弱い可哀想な物を可愛いと思うのは、本能的な性欲のように思えてどうにも受け入れ難かった。

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