オギェッセイ#10 虚ろな想いは移ろい
2022-08-01
職場で働きはじめてからちょくちょく、別の部門で働く年上の木村(仮名)に「ヤらせなさいよ~」と冗談めかして言われていた。
香水を毎日1リットルくらいかけてるんじゃないかというくらい匂いを放つ人だった。
働いて数年経った頃の夜、やたら落ち込んでいる様子だったので話を聞くと、
理由は言って来なかったがいつもと違って覇気のない雰囲気だった。
今考えると、ただバッドトリップしてただけだったと思う。
「今夜だけ一緒に寝てくれないかな」と言われ、可哀想な物に手を差し伸べる情けのような気持ちで添い寝をした。
夜の仕事の担当だったからか、寝床の半分は押入れの1段目で、そこに上半身を突っ込んで寝るような形だった。
なんの感情も持っていなかったけど、人肌の抱きまくらになってただ眠った。
翌日は気分も取り戻したのか、いつもの調子に戻っており、それ以降そういった事もなく、月日は流れた。
当時はmixi全盛期で、みんなそれぞれ自分の生活を日記にしたためており、
コメントの返事がこないだの、リムられただの、誰々から足跡がよくついてるだのと、
今のSNSと同じような事に一喜一憂している人が大半で、
ツールが変わっただけで、今も昔も変わらないインターネットご近所物語が繰り広げられていたし、
自分もめちゃくちゃセックスしていた。
名前も思い出せない短期間彼氏みたいな人も数名居る。
そこで当時知り合った森田(仮称)という子が居た。
メッセージのやり取りを何度かして、何度か合って、セックスをした。
お台場デート中に彼の彼氏から来た連絡を楽しそうに話していた。
何度目かの会う約束を取り付けようと連絡をしたら返って来なかった。
インスタントな出会い方で知り合った相手がインスタントに切れるのは十分経験していたけれど、
飽きられた事に納得するには、期待も持ってしまって居たし、しょうがないと思えるほど森田を知らなかった。
しばらくして聞いた話によると、
森田が木村とも関係を持っていた事と、木村の家で森田がログインしたmixiの履歴から、
自分と森田のやり取りを見つけ、それをプリントアウトして木村の彼氏に見せたという事、
そして別れたという事だった。
登場人物全員自業自得なんだけど、初めて人を憎いと感じた時だったと思う。
その後どういった態度で接していたか記憶がない。
おぎはストレス下の記憶を飛ばす能力に長けている。
その数ヶ月の後、木村は薬で捕まった。
個人情報保護法の余罪をつけてやりたい。
保釈金を払って出てきた彼を会社は一旦受け入れた。
その頃は、家族全員金に困り任意整理だの自己破産だのに陥って居て、
兄も妹も母に金の無心をはかり、母は自分に無心をはかり、自分自身の借金も300万弱に膨れ上がって居た。
そんな中、兄は嫁子供を残して蒸発した。
私生活は人の悩みなんて聞いていられないくらい気が滅入っていた所に、
木村を受け入れる職場に不信感が増したので、
さっくり辞める事にした。
借金も自己破産はちょっと痛手が多いので、弁護士に相談して任意整理をした。
幸い、WEB人材の売り手市場だったので、当時渋谷に乱立してたITベンチャーにスルっと転職出来た。
そうして、学ぶ事も楽しい事も、気持いい事も気持ち悪い事も、傷つく事も諦める事もたくさんあった二丁目から4年ほど離れる事になる。