オギェッセイ#08 膝を抱えて
2022-07-19
ネットの出会い系掲示板で知り合った高田(仮称)と初リアルの日、指定された場所に行くと「お店予約してあるんだけど、海鮮とか大丈夫?」と聞かれ連れて行かれた店は、年齢にそぐわない店だった。大きいカウンターの真ん中に大将が居て、鮮魚が氷の上に綺麗に並んでいた。
(金に余裕のある男だ…)
と思った。
その日は会話も弾んだが、その後予定もあるとの事で解散となり、そこもガツガツしてない辺りに余裕を感じた。
何度か会ってご飯を食べるうちに、色々と込み入った話もしてくれるようになり、
音楽プロデューサーである事、当時クラブで流行っていた音楽ジャンルの歌手を手掛けている事などを話してくれた。
その理由もあって、自分がゲイであることは表沙汰にあまりしてない。という事も。
ちなみにセックスもリリックが多いタイプだったが、その他の振る舞いが自分のテンションを上げてくれる事ばかりで、めちゃくちゃ好きになっていた。
仕事が忙しく会えない日が続いたりして、フラストレーションが溜まる付き合いだったが、深夜少しの空き時間で待ち合わせ、小洒落た店に連れてってくれた。
当時働いていた会社でクラブも経営していた事もあり、手掛けているアーティストがライブをやる機会があって、現場で会うかもしれない。
と言われ、物分かりの良い振りしていた自分は、二人の関係がバレないように、音楽関係者と会場側の人間という立ち位置を振る舞った。
会場で話していると高田が遠くから手まねきをしてきた。
「この子がおぎ君の事イケるってさ」と、自分の友達の真下(仮称)を紹介してきた。
キレそうだった。
冷静に考えれば、周りにゲイを公言していない上京で、知り合いを紹介してくれと言われて断れなかったんだろう。と思う。
キレそうっていうかキレて当日そいつと寝た。
その人もシャレた家に住んでいた。
部屋の材木がいちいち無垢だったし、煙草を吸わないのになぜかでかい灰皿があったり、「歯磨き粉使わないんだよね」といってリステリンで濯ぐだけだったりと気になる所が沢山あったが、寝た。
その後、紹介した事を侘びて欲しかったのと、後ろめたさと、彼への好意が入り混じった複雑な感情に苛まれ、連絡できずにいると高田から連絡が入った。
高田「真下と寝たんだってね…」
おぎ『嫌ならなんで紹介したの』
高田「周りには言ってないって言ってたでしょ」
その後、不毛なやり取りが続いたが、高田との関係は終わらせたくなかったので、
おぎ『今すぐ会って話したい』
高田「今日は仕事で無理」
おぎ『来るまで新宿のバージンメガストア*前で待ってる』
高田「いつ終わるか分からないから…」
*注:現在のIKEA新宿店
と連絡して待っていた。
メールの返事もなくなり、数時間待っていた。
2時間くらい経ったら、もう来ないんだな。終わったんだな。と思った。
あんな人通り多い所で膝を抱えて泣いた。
その後恥ずかしくなって二丁目で酒を浴びた。
大丈夫かお前。
後日連絡が返って来る事もなく、十数年経って2丁目でばったり再開し談笑するようになったのはまた別のお話。
ちなみに性格の悪い人に聴いたのは、真下の灰皿は健全じゃない煙が出る草用だったそうだ。
その後会わなくてよかった。