オギェッセイ#06 ジョーキョーズ ハイ
2022-05-30
18歳から働き始めた会社は、いわゆるゲイ向けサービス業の総合企画会社で、働き始めた時には「ゲイアダルトビデオ制作」「アダルトグッズ販売店」「クラブ」「売り専」「ハッテン場」「ニューハーフバー」「カフェ」などを展開しており、その本部の事務所で、関連会社の紙ものや映像やWEBの制作が主な仕事だった。
アダルトビデオ
海外AVのライセンス品の販売。主に日本語版のタイトル決めと商品発送、広告出稿、ウェブの更新。
昼食時にテレビで作品を流して内容紹介やタイトルを決める。複雑だけどモザイク前の動画見放題。
アダルトグッズ
店舗で売る下着類の撮影、ウェブの更新。
クラブ
自社オーガナイズイベントのフライヤー作成。ウェブの更新。
売り専
ボーイの画像加工、ウェブの更新。
ハッテン場
とくになし
ニューハーフバー
キャストの画像加工や掲載、ショータイム前のオープニング映像の素材作成。ウェブの更新。
カフェ
フードの写真撮影、メニューの作成、ウェブの更新。
働き始めて1ヶ月程経った時、面接をしてくれた社長が事務所で仕事をしている自分の後ろに立ち止まり、
『アンタ可愛いわね』
と言って首筋にキスをしてきた。
引きつった笑顔で受け流したが、首筋に残った唾液の感触と、顔面採用か。という自覚による落胆でひどく不快だった。同じ事務所で社長の彼氏も働いているのに、どういうつもりなのか全く分からなかった。
平日の仕事とは別に、月1ヘルプで店子を手伝ったり、事務所のコネで大箱で行われていた、当時定期開催の中では最大規模だったゲイナイトでクロークのバイトもしていた。
20:00-5:00くらいの間、フライヤー折込の手伝いと、座って荷物を預るだけで1万円貰え、和光の弁当(あやめ)までついていた。
めちゃくちゃ美味しいバイトだったので、最終開催を迎える日まで働いた。
そのイベントでの出来事で、今の子はにわかに信じ難いかもしれないが、当時は、脱法ドラッグに対する規制や意識も今ほど明確なものではなく、アナルへの挿入を楽にするためのRUSHなどは割りとポピュラーに使われていたり、路面店でマジックマッシュルームが普通に売ってたりしていた時代で、そのイベントに居た人にトイレの個室に連れてかれ、RUSHのような小瓶を嗅ぐように促されたので嗅いで見ると、いつものそれとは違う感じだったので、
「これなに?」
と聞くと、
『"何"とか聞かないの』
と言われた事を思い出す。深く聞かなくて良かったとも思う。
その出来事以降、こういうものには関わらないようにしようとも思った。それは目標にしていた、"自活"に要らないものだった。
一気に広がった人の輪だったが、貞操観念や、恋愛観や、倫理観が違いすぎる人ばかりで、大きなギャップに戸惑いを感じつつあった。
田舎から東京に出てきたジョーキョー(上京)ズ ハイみたいなものが作用していたせいか、自分が許せないと思っている物を、許さなきゃいけない空気。のような物がそこにあった。
本業の話に戻るが、昼食を一緒に食べる同じフロアの社員の中に、ビデオ部門のモザイク処理を担当してる、丸山(仮名)さんという人が居た。
ある日、別の職場の人と飲んで居る時、関連会社内で誰がイケるか。という話題になり、その人の名前を上げると、
『は?バカッ!早く言いなさいよ。向こうもゴンイケって言ってたわよ。ちょっと連絡してあげる』
と言う流れになり、二人で会う事になり、その日にそういう事になった。口数の少ない朴訥なタイプで、一瞬で好きになった。
職場は、"社内セックスはOKだけど社内恋愛は禁止"という決まり事があったので、紹介してくれた人以外には秘密のまま関係を重ねていたが、付き合っているのか明言されない状態が続き、その不満が不躾な態度に出てしまっていたのか、すれ違って連絡は取らないが毎日職場では会うといった状態になった時、職場の社内恋愛は禁止という決まりの理由が分かった。
その状況に耐えられず、きちんと話をしようと連絡を取った所、『夜に家で話そう』と丸山に言われ小金井の彼の家へ向かった。
他愛のない世間話が続き、しびれを切らした自分が思いを伝えた。
「自分は付き合いたいと思ってるんだけど、どうしたいのかわからない」
『別に好きな人がいて、その人と付き合いたいと思ってる』
言われた直後に頭に血が登り、泣き出しながら家を出ようとした。
『もう終電ないでしょ。泊まっていきなよ』
「こんな話の後に泊まれるわけない」
『いやいや…じゃあせめて…これ…』
1,000円だった。
ふざけんな。
俺、住んでるの王子だけど?
丸山の家を飛び出したは良いものの、良く分からない土地でやりきれない思いに苛まれ、誰かにすがりたくて連絡したのは、一番最初の山田だった。
話した内容は覚えていないが、泣きながら恨みつらみのような話をしたのだと思う。
幸い、山田の住んでる吉祥寺まで歩けない距離ではなかったため、google mapを頼りに山田の家に迎い入れて貰い、数年ぶりに一緒に寝た。
セックスはせずに、ただ慰めてくれたと思う。(ヤってたらごめんなさい。その辺りの記憶曖昧です)
その後、丸山とお互い当たり合うような空気が続き、職場の人たちもなんとなく話の流れを分かって気を遣う日々が続いたが、丸山の退職を以ってその空気は解消された。
恋に負けて、根気では勝った。そういう時の闘争心はとても強いのだ。