オギェッセイ#05 神なんていない
2022-05-30
福島で学校を辞め、千葉へ引っ越した頃、都内の高校に通う同い年の佐々木(仮名)という子と付き合っていた。
LDHのなんかのグループに入ってそうな話し方や立ち振舞いで、
『俺、女の子もイケるから最終的には結婚すると思う』と言ってくる事があった。
無邪気な人だった。
『俺、周りによくブス専って言われるんだよね』と言って来ることもあった。
本当に無邪気な人だった。
東京弁の見習う相手がゲイバーの店員や客だったので、自分では標準語だと思って使っているものがどうやらメスみを感じたらしく、
『お前、なんかオネェっぽいからヤってる時は方言出して。俺、方言好きなんだよね』と言われた。好きだったので必死で方言を出した。
ずいぶんと無邪気な人だった。
クリスマスに合わせて都内に遊びに来たら、待ち合わせ場所で”もう無理だから別れたい”と言われた。
本当に勝手な人だった。
その頃は、千葉の親戚の旅館の一室に身を置かせて貰い、都内のDTP関連のバイトに応募ては不採用続きで、絶望感を味わっていた最中で、
好意の初期衝動だけで相手を信じたり、相手を頼ったりする事を当然のようにしていたので、別れ話をされた後は2丁目で荒れるに荒れた。
事情を話していた友達に相談したら、相手の家で手を出され、さらに荒れた。
1週間ほど、ハッテン場と知らん人の家と二丁目を行き来し、年が明け、うっとうしい朝日を見て気持ち悪くなって帰った。
ザルで水を掬うような毎日を送る自分を見かねたのか、親戚の叔母さんが、
『免許があれば仕事にも繋がりやすいだろうから、お金は出してあげるから免許を取りなさい。』
と言ってくれた。とてもありがたかった。
短期間で取れるように合宿のコースを申し込んでくれて、初日に学校の説明会と宿泊所の見学があったのだが、宿泊所の相部屋が嫌過ぎて、
「自転車で通うから宿泊キャンセルしてもいいかな…?」
とわがままを言った。すまねぇ。
割りとやればできる子なので、筆記も実技も一発合格で、余計な迷惑をかけることなく免許を取得した。
その間も合間を見ては週末東京へ遊びに出ていたのだが、その時知り合った人の会社でDTPやWEBのバイト人員を募集してるから紹介しようか。と誘ってくれた。
渡りに船だった。しかし折角取った免許は就職に一度も使われる事がなかった。
申し訳ねぇ。あと運転の為に借りてた叔母さんのマセラティをボッコボコにしたのも申し訳ねぇ。
早速その会社へ面接へ行き、すぐに採用が決まり働くことになった。
当初、千葉から通う予定だったが、働き先が都内で見つかったという話を叔母にすると、
『都内に引っ越すお金も私が出してあげる。その先は自分の力で頑張りなさい。逃げ場があると人は成長しないから。挫折はしてもいいけど、妥協はしちゃダメよ。』
とケツを叩いてくれた。秒で甘えた。
叔母さんの旦那さんは、結婚直後に交通事故で半身麻痺となった。
女手一つで旦那さんの介護と季節労働者向けの宿泊施設を切り盛りしていたパワフルな人だった。
二人には子がおらず、傲慢な思い込みだけど、自分の子供のように扱ってくれたのだと思う。
自分を東京へ送り出した数年後、叔母さんの旦那さんが亡くなった。
今まで出来ずに居たシャンソンを趣味で始めた矢先、自身にステージ後半のガンが見つかり、治療や引き伸ばしを行わずに逝った。
人の事は背負うのに、自分は迷惑をかけたがらない人だった。